ゼノver

頭が重い。
きっとカウントダウン会場では大人たちがハメを外してお酒を飲んでその瞬間を今か今かと待ちわびているのだろう。目の前で終わらない仕事と向き合っているの私の気持ちなんてその人種には理解できない。

「もう仕事したくない…お酒飲んでバカになりたい…」
「いいから手を動かしてくれ」

なんで今年最後の日に同僚であるゼノと一緒に仕事をしているのだろう。同じプロジェクトが年末まで炎上してしまうとは思わなかった。そして他のメンバーは帰ってしまった。なんで?

「ねえやっぱりあいつら呼び出そうよ私もお酒飲んでおしまいになりたい」
「君はいつも思考がおしまいじゃないか」
「本人の目の前で悪口はやめよう!」

目の前でカタカタカタとキーボードを鳴らしてプログラムを書いていく私。年末感など一切ない。いや、まぁ確かに毎年年越しの瞬間なんて年末感ないしビールを飲んで映画を見て気づいたら寝落ちして二日酔いで朝を迎える。なんか会社で朝を迎えても一緒な気がしてきたな。

「君もバカみたいにカウントダウンして花火を見るタイプの人間かい?」
「それより酷いよ、お酒飲んで終わり」
「おお、じゃあ今日はマトモな年越しだね!」
「正気か?」

気づけばパソコンの時計は0時を越えていて知らないうちにカウントダウンすら終わってしまっていた。いやそれよりも先ほどから無限に湧いてくるバグの処理をしなくてはならないのだけれど…誰だよ、こんなにバグ仕込んだやつ。あとで絶対犯人見つけてやるからな。

「花火といえばね」
「今日はずいぶんおしゃべりね、ゼノ」
「…すまない、喋っていないと眠ってしまいそうで」
「ごめん私が悪かった。話の続きをどうぞ」

そりゃそうだ、マトモな生活をしていたらこの時間にはとっくにベッドの中。しかもここ最近は炎上し続けるプロジェクトを眺めるだけでも睡眠時間が削られていく。私よりも体力がない(推定)ゼノにはこの生活はそろそろ限界だろう。

「日本では普通に花火が販売されているらしいよ」
「マジで?!火薬手に入れ放題じゃん!」
「そうなんだよ!同時に僕らが日本に生まれてなくて良かったとも思うね!!」
「絶対正規の楽しみ方はしてなかったわね。え、なにふっ飛ばしたい?私は弊社」
「奇遇だね、僕もだよ」

そんな会話をしながらも手だけは動かしている私たち。お酒がなくても少しだけ楽しくなってきた、これが限界ってやつか。

「ねえこのあと家帰るの?それとも会社に泊まり?」
「おっと帰れると思っているのかい?」
「…私、あと少しで仕事終わるんだけど」
「僕は君の2倍は仕事を抱えていて終わる気配がない」
「素直に手伝ってくれって言いなよ…」

わかった、朝まで付き合うわと答えた私にチャットで仕事を押し付けるゼノ。まったく、無事にこの仕事が終わったら一杯奢ってもらおう。ビールがいいかワインがいいか、それとも少しオシャレにカクテルか。そんなことをぼんやり考えつつ仕事をしていたらあっという間に朝になってしまいそうだ。

公開日:2020年12月31日