ふたりの世界の傍観者 シャーロット視点

リクエスト内容:第三者視点のイチャコラ夢。
周囲から見たスタンリーと夢主の話


ずっと憧れている人がいる。ボクが所属する隊の隊長でいつも冷静沈着、指示は的確、その上神腕のスナイパー。人格者とは言いがたいが、隊長を慕っている軍人なんてボク以外もたくさんいる。
そんなスタンリー隊長に恋人がいるのは知っていた。ボクの憧れは恋とは異なるもので、ただその話を人伝に聞いたときは「あの人と付き合えるなんてどんな女だよ」と抑えきれない好奇心が沸いたものだ。
ただ、

「ハニー、今日も世界で一番可愛いぜ。今すぐキスをくれてやりたいところだがあいにく今は作戦会議中でね。ちょいと待っててくんね?」
「マシンガンの整備に来ただけだからお構い無く」
「そんなわけにゃいかねぇだろ。わかった。終わりだ、会議は」
「コラ。今日は鉱石採掘でしょ、隊長さんがそんなことでどうするの」

ボクが憧れたスタンリー隊長はもういないのかもしれない。
目の前にいるのは恋人にベッタベタに甘い言葉を投げ掛け人前、なんなら部下の前にも関わらずあわよくばその唇を彼女の頬に落とそうとしているスキンシップが過剰なただの男だった。まさかスタンリー隊長がこんなにも恋人に甘いと思わなかったボクは、完璧で、クールで、冷徹で、非の打ち所がない彼への幻想を打ち砕かれたわけだ。
そんなスタンリー隊長は今も恋人である名前にべったりくっついて会議を中断させている。普段なら完璧な指示の元、細かい作戦を詰めている頃だが名前がいるんじゃそれも叶わないだろう。

「みんなごめんね、私もう行くから」

そう言って困ったように眉を下げながらボクたちに声をかけるのは隊長の恋人、名前だ。彼女は研究者らしく白衣を着て、片手には紙の束を抱えている。そしてもう片手はスタンリー隊長に捕まえられて自由を奪われていた。
小柄で可愛らしい顔だち、長い髪が良く似合う人。ボクと年齢は変わらないのに研究者として活躍していたらしい名前は気さくで優しくて、よく笑う子。ボクたちの相談にもよく乗ってくれるし、どっかの誰かさんと違って危険な思考も持っていない。彼女こそ人格者と呼ばれる人間なのだろうと思う。

「つれないこと言うなよハニー、整備手伝ってやっからさ」
「スタン、すごく嬉しいけど一人でできるから…」

物凄くお似合いのふたり。それこそ「理想のカップル」なんだろう。喧嘩をしたところすら見たことがないし、スタンリー隊長は毎日名前を口説いては彼女を困らせている。それに関しては前に「まんざらでもないだろ」と名前をからかったら居心地が悪そうに「…そうね、そうかもね」とまごついていた。
名前についてはまったく問題がない。むしろ幸せになって欲しいと願っている。問題は憧れ、尊敬していたスタンリー隊長の溺愛ぶりである。
別に隊長のプライベートの時間についてとやかく言っているわけではない。今みたいに会議を中断させてまで名前に甘いのがどうにも調子が狂う。

それこそ、石化前はもちろん恋人の話題なんて一切聞くことがなかったしなんならそれに関する質問をしようものならば冷たく睨まれて「くだんねえこと聞くな」と一蹴されていた。ただ、スタンリー隊長の恋人ともなれば物凄い美女だろうと噂されていたのを覚えている。実際にあの日、国立公園で白衣を着て微笑んでいた名前は可愛らしいと思ったし隊長の恋人というのも納得がいった。そして隊長が名前を大切にしてんのも見て取れた。…けど。

「名前にマシンガンほんっと似合わねーな。整備しろっつったのゼノか?後で文句言わねぇと」
「おあいにくさま、今日は私フリーでね。手持ち無沙汰だから暇つぶし」
「聞いてねえな。鉱石なんか掘りに行ってる場合じゃねえ、デートしようぜ飛行機とってくんよ」
「だから!鉱石がないと私の作業がないの!早く会議再開して!」

会議中だってことわかってんのかな隊長。
顔をずいっと近づけて頬を寄せるスタンリー隊長に抵抗する名前。しかし隊長の力に敵うはずがない。すぐに腰を引き寄せられて固定されてしまえば、名前はもう逃げられない。駄目だと主張する名前のことなんておかまいなしで隊長はその柔らかそうな頬に唇を落とした。
あ、もう今日のスケジュールなくなったな。そうぼんやりふたりを眺めていると名前の拳が隊長の横腹に入った。それに周りから思わず「おお…」という感嘆が漏れる。そりゃあそう、隊長に一発入れれるのなんて名前くらいだ。さすが最強と噂されてる女、あとでからかってやろ。

ちなみにボクもそうだが、最近は隊のみんなもこの光景に慣れて「またやってるよ」くらいの心持ちでイチャイチャタイムが終わるのを静かに待っている。マヤは「ほんと可愛いカップル」なんて笑っているが、ボクにはそんな度胸はない。名前には言ったことはあるけど、隊長には口が裂けても言えないだろう。

「あーもう!シャーロット助けて!」

おいバカ、ボクの名前を出すな!そこはマヤにしとけ!
友人である名前にやめてくれ!という視線を向けるがもう遅い。スタンリー隊長はギロリ、ボクを睨んで「文句あんのかシャーロット」と冷たく言い放った。

「ないです」
「ちょっ…」
「ここにいる奴ら全員俺の息がかかってんだよ。諦めな」

スタンリー隊長の言う通りだ。この場にいる軍人は全員隊長には逆らわない。というか、隊長に物申せるのなんてゼノかブロディ、マヤくらいじゃないか?ただ、全員名前を救出したことはないが。
諦めな、と言われて名前が小さく唸りながらボクを見る。ごめんな、隊長に睨まれて怒られるより名前に「裏切り者」と言われたほうが楽なんだよ。それにそれ睨んでるつもりか?可愛い顔が隠せてないんだよ、いっつもさ。

「はー、しゃーねーな準備すっかね」
「是非そうして。あと離して」
「おいおい、探索行っちまったら数時間会えねぇんだぜ?」
「たった数時間で何言ってるの。煙草行ってくる~って言ってから数ヶ月帰ってこないのが当たり前だったくせに」

そう笑って名前が隊長の頬を撫でる。するりと腕から抜け出して隊長の唇に人差し指を当てて「ほら、しっかりして隊長さん」と微笑めば隊長の口の端が上がった。…前々から思ってたけど名前もかなり人前でイチャつくのに抵抗ないよな。ほんとお似合いカップルだよ。

「夕飯たくさん作って待ってるからみんながんばってきてね」

そうボクたちにも気を使って隊長から距離を取った名前。そのまま机の上にあったマシンガンを抱えて部屋から出ていってしまった。その姿をじい、と見つめていた隊長はフゥーと大きく息を吐いてジロ、とボクを睨む。

「シャーロット」
「は、ハイ!」
「お前は名前のサポートだ。行ってこい」
「イエス、サー!」

そう敬礼をしてすぐに部屋を飛び出す。マシンガンを抱えてよたよたゆっくり歩く名前はすぐに見つかって「貸しな」と銃器を取り上げる。ボクが追いかけてきたことにびっくりしたのか、ただでさえ大きい瞳が見開かれてそのまま困ったようにふにゃりと笑った。

「ごめんね、スタンが迷惑かけて」
「迷惑じゃないけど、ホンット溺愛されてんね。名前の手伝いしてこいってさ」

ボクは採掘サボれるからいいんだよと言ってやると嬉しそうに「ありがとう、シャーロット」と笑った。隊長の指示だからな!と釘を刺してもにこにこ、研究室に行こうかとボクに提案する。

「なんか嬉しそうじゃん。鉱石いっぱい手に入るといいな」
「それも楽しみなんだけどね」

今から取りに行くというボクには価値が見いだせない石は彼女にとってはどれも大切な研究材料らしい。だから早く採掘に行ってほしいと隊長に伝えていたんだろうし、今から鉱石を見るのが楽しみなんだろう。いつもより頬が緩んでいて歩き方も声も弾んでいる。
けれど名前は「鉱石よりも」とボクの言葉を甘く否定した。

「スタンがすぐ私のところに帰ってくるのが嬉しいの」

その言葉に面食らってしまってガバッと名前の顔を覗き込む。軍人のボクにとってその言葉は胸を抉った。そっか、そうだよな。昔っから名前と隊長は付き合ってて…どれだけ会いたくたって寂しくたって名前は隊長の帰りを待つしかなかったんだな。しかも次生きて会えるかもわからないなんて酷な状況を何ヵ月も何年も一人で耐えてきたんだろう。
それに比べたらたった数時間。しかも命の危険はほぼないときた、安心して頬が緩むのも頷ける。

「なんてね、スタンには内緒にしてね」

そう言って人差し指を自分の唇にあてた。シー、とジェスチャーをした名前はいたずらっ子のように笑ってボクに秘密を強要する。心配しなくても隊長にそんなプライベートな話吹っ掛けれはしないが…言ってやりゃいいのに。隊長喜ぶだろ。惚れた女にここまで愛されて舞い上がらない男なんていないだろうし、あのベタ惚れぶりを見ていると反応なんか見なくても想像がつく。

「お前ほんといい女だな。隊長が惚れんのもわかるよ」
「なに急に。照れちゃうよ」

彼女の幸せがいつまでも続くように。それを近くで見てられるように。友人として、部下として人騒がせな恋人同士が少しでもふたりで過ごせるように。
ボクにできることはしてやりたい、なんてな。そんなことをぼんやり考えてはみたものの隣で柔らかく微笑む名前には絶対に言ってやんねー、と言葉をまるごと飲み込んだ。

公開日:2021年3月4日