スタンリーver

ニューイヤーカウントダウンのたった二秒後に部屋に飛び込んできたスタンに思わずクスクス笑う。スタンは眉間に皺を寄せて咥えているタバコをがじっと噛んで少しだけ機嫌が悪そうだ。

「ダーリン、二秒遅刻だけれど?」
「あークッソ、道混みすぎだろ」

珍しく慌てた様子を見せたスタンは頭をがしがし掻きながら息をつく。そしてパッと表情を切り替えて私の隣にどかりと座った。

「ハニー、ハッピーニューイヤー」
「あらもう年明けからずいぶん経ったけど?」

甘い声と笑顔で押しきろうとしたのか、私ににこにこ整った顔を緩ませてみせるスタンはそのまま私の肩を抱き寄せた。が、そんなことで誤魔化される私ではない。数分遅れのニューイヤーキスでそのまま丸め込まれてしまっては彼の言い訳を聞くことができない。

「道が混んでて」
「今日は花火が上がるからね」
「んで中々車が進まなくってさ」
「でしょうね」
「ギリギリまで仕事でコキ使われてたダーリンをアンタは労ってくれるだろ?」
「あら、それを決めるのはあなたじゃないわ」

いつもかっこいいスタンのちょっと情けない言い訳を聞くのが大好きでつい意地悪をしてしまう。思わず口の端を震わせて笑うのを堪えているとそれに気づいているスタンがすり、と肩に顔を押し付ける。思ってもいないくせに「許してハニー」とあわよくば私に触れるのだ。
外の気温はすっかり下がり切っていて窓を開ければすぐに部屋中が冷気に包まれてもおかしくない。そんな中帰ってきたにも関わらずスタンの体は少しだけ温かい。本当に珍しい、どうやら走って部屋に飛び込んできたらしい。

「ふふ、お仕事おつかれさま」
「もう許してくれんの?」
「もともと怒ってないからね」
「ったく、意地悪だなアンタも」

元々カウントダウンにスタンが間に合うと思っていなかった、なんて言ったら整った顔を歪めて笑うだろう。今日中に私の元へ帰ってきたことに十分驚いたし、それだけで幸せだ。

「そうだ、ワイン買ってきてんぜ」
「本当?グラス出そっか、乾杯しよ」
「その前に」

私の手を摑まえてぐいーっとソファーに私を押し倒すスタン。そしてそのままちゅっと軽いキスが降ってきた。

「ニューイヤーキス、したかったんだろ?」
「カウントダウンの瞬間にね」
「嬉しいくせに」

そう言ってもう一度唇を重ねる。そのまま下唇をはむ、と甘噛みした。このままじゃワインどころじゃなくなるわね、と危険を察知した私はとんとんっとスタンの体を叩く。まだ早い、と叱り上げると「ふーん、あとならいいんだ?」なんて返事をするのだ。まったく、この男は。ダメって言ってもするくせに。

「愛してんぜ、名前」
「私もよ」

ふふっと笑ってするりとスタンから抜け出す。足取り軽くキッチンに向かう私の口元には先ほどのスタンの熱が残ったままだ。今年も彼の隣にいられたらいいな。そんなことを考えながらワイングラスを手に取った。

公開日:2020年12月31日