スタンリーver

「ずいぶん美人になったなアンタ」

突然の雨で傘もなく頭から足の爪先までずぶ濡れになった私を見てニヤニヤ煙草を吸いながらそう言い放つスタン。ぽたぽたと髪から水滴が落ちている恋人を見て、まったく、ずいぶんな言い草だ。普段は仕事で滅多に会えない彼が部屋にいたことに驚いたが、正直それどころではない。玄関で再会を喜ぶ余裕もなく、長時間豪雨にうたれ全身がずっしりと重くなってしまっていた私は重い重いため息で返事をしてしまう。

「タオルいる?」
「…いる」

うう、最悪だとぼやいていると大きな笑い声が聞こえてタオルが私目掛けて飛んでくる。それをキャッチしきれず頭にかぶってしまい、余計に彼の笑声が大きくなるのをただただ俯いて唇を尖らせながら聞くのだ。

「傘は?」
「雨ふるなんて聞いてない」
「相変わらず天気予報見ないね、アンタ」

そう言ってタオルごと私の頭を掴み、わしわしと乱暴に頭を撫でまとわりつく水滴を拭おうとするスタン。乱暴な手つきに、わ!と驚きを口にしてみたがそんなことよりも久々の彼の大きな手のひらに冷えきった体の胸のうちがじんわり温かくなるのを感じる。
なんて単純な女なんだろ、私。

「体冷えきってんね」
「とりあえずシャワーかなぁ」

服ももちろんびしゃびしゃでこのままリビングに上がってしまうとお気に入りのカーペットまで雨の被害に合ってしまう。それにこんな姿で長時間いたくない。服が乾くまでこのまま、なんて簡易地獄だ。

「OK」

そう彼の相槌が聞こえてひょいっと彼の逞しい体に引き寄せられそのまま体を持ち上げられた。濡れた体に濡れた服がぐちゅりとへばりつき、服から溢れた水分がスタンの手や腕、服まで濡らしてしまう。

「スタンまで濡れちゃうよ」

自分で歩けることを主張するも彼は私を床に下ろしてはくれない。それどころか頬に唇を落として微笑むのだ。

「雨からアンタを守れなかったんでね。バスルームまでエスコートくらいさせてくれよ、ハニー?」

長い彼のまつげがぱちりと片目だけ閉じられる。相変わらず整った顔をしている彼にそんなことを言われてしまったら体を委ねるしかない。
明日からはきちんと天気予報を見るから、と呟いた私に「前んときもそれ聞いたぜ」と軽口を返すスタン。うう、返す言葉が見つからない。
バスルームに私を放り込んで「早く出てきてくれよ」と微笑む彼と、ひらりと振られる手。その姿に苦笑いだけを返すがスタンはもう私に背を向けてリビングに戻ろうとしている。
…明日から、明日からは天気予報をきちんと見よう。そんなことを誓いつつ、雨に降られるのも悪くはないなぁなんてスタンの温もりを思い出しながら重たい衣服に手をかけた。

公開日:2020年10月8日