獅子王司ver

真夜中の初詣というのはどうしてこんなにドキドキするんだろう。きっと普段はこんな時間に外に出ることがあまりないからだとは思うんだけど、今日だけはちょっと違う理由がある。

「名前、寒くないかい?」
「全然平気!」

いつもより明るい神社に今か今かと年明けを待つ人たち。その人ごみの中で私たちも年明けの瞬間を待っていた。その間もずっと除夜の鐘は鳴り続けていてひっきりなしに私たちの煩悩を消してくれている。

「寒かったらすぐに言うんだよ」
「うん!」

私は今日、家にいるときからずーっとソワソワドキドキしっぱなし。理由は簡単、先ほどから私の体を心配してくれている司くんとお出かけできるからだ。正直かなり舞い上がってしまっている。除夜の鐘が本当に煩悩を消してくれるのだとしたら、そろそろ私のこの緊張にも似た胸の高鳴りも納めてくれるはず。それなのに一向に納まることなくって、むしろどんどん心臓がうるさくなってしまうから困っちゃう。
高校生の私たちが二人で夜中にお出かけというのは少しだけ特別だ。きっと今日、大晦日じゃないと許されなかっただろう。初詣デートの相手が「あの」獅子王司くんだから大丈夫、と両親を説き伏せたというのもあるけれど…。

「こんなにゆっくり過ごすのは久しぶりだね」
「司くん忙しいもんね。だから今日、すっごく楽しいよ」

そう言って司くんを見上げるととても優しく微笑んでくれる。その表情がすごく好き。優しいところも強いところも、私のことを大切にしてくれるところも全部ぜーんぶ大好きだ。

「もうちょっとで年越しだね」
「うん…そうだね。今年は名前と居られて幸せだったな」
「私もすーっごく幸せだったよ、いつもありがとう、司くん」

思い切って司くんにぴとりとくっつくと司くんが少しだけ驚いたように目を大きくする。わ、司くんあったかいなぁなんて思っているとぐいっと肩を抱かれて引き寄せられた。

「その…はぐれるといけないから」
「うん」
「嫌なら言ってほしい」
「嫌じゃないよ、嬉しいよ」

司くんの頭は人ごみからひとつだけ飛びぬけていてはぐれてもきっとすぐ見つけることができるだろう。でもそうやって優しく抱き寄せてくれるところとか、こんな時まで私のことを気遣ってくれるところとか、

「うん、あたたかい」

たまらなく私が好きだと言わんばかりに目を細めて微笑んでくれるところとか、全部好きだ。
その司くんからの大きな愛情にきゅうう~っと胸が締め付けられた。きっと私の顔は今赤くって、普段より明るい道のせいでその色は筒抜けだろう。私の顔を見てフフッと笑った司くんにまたどきっと胸が鳴った。

「来年はもう少し一緒にいたいな」

そんなことを照れもせずに言うんだからずるいや。来年も一緒にいてもいいんだな、なんて自惚れちゃう。
年越しまであと数分。くっついたまま除夜の鐘を聞いて、カウントダウンをして。そのあとはどうしよう?早く帰らないと怒られちゃうかな。今だけは司くんとの時間を大切にしたいから帰る時間は気にしないでいたいな。
せめて、除夜の鐘が鳴り終わるまで。そこまでは時間のことは忘れちゃおう。なんて怒られそうなことを考えながら司くんの手をぎゅう、と握った。

公開日:2020年12月31日