西園寺羽京ver
「羽京くん、準備できたよー」
年越しまであと一時間。ばっちり化粧をして髪をまとめてニットのワンピースを着た私は彼氏である羽京くんにそう声をかけた。
こたつに沈んでテレビを見ながら私の身支度を待っていた彼から返事はなく、「あれ?」と声を漏らしながらひょっこり彼の顔を覗き込む。
「ね、寝てる…」
待ちくたびれてしまったのだろう、ぐっすり気持ちよさそうに寝ている羽京くん。その寝顔に思わずくすくすっと声を漏らして笑ってしまう。
まったく、せっかく一緒に年越しができるから初詣に行こうと言ったのは羽京くんなのに。だからこんな時間に化粧をして着替えまでしたのにな。責めるつもりはないし、なんならこのまま眠っていてほしいとすら思う。いつもお仕事お疲れ様、とこっそり声を出さずにぱくぱく口を動かして伝えるとふにゃり、羽京くんの顔が緩んだ。
完全に寝てる彼にこちらの頬まで緩んでいく。これは初詣は明日になるな、とこたつに入り込んでつんつん、と足ですっぽり飲まれている羽京くんの体をつつく。が、反応はなし。
…今ラッパを吹いたら彼は飛び起きるんだろうか?や、やってみたい気持ちはあるけれどさすがにそれは可哀想だ。せっかく少ない休みを活用して私に会いにきてくれてるのに。
「うーん、起きないなぁ」
まぁいいか、とつけっぱなしになっていたテレビを眺める。年末特有の特番を見ていると羽京くんから「ううん…」と声が漏れた。…ぐっすり眠ってるな、こいつ。
「羽京くーん、あと10分で年越しだよー」
起こすつもりはないのにそう緩く声をかける。もちろん彼は起きないし、私も起きなくて内心ほっとしていた。…起こしちゃったら可哀想だもんね。外寒いし。
あとこう声をかけておくことで「起こしてよ!」ときっと文句を言う羽京くんに「起こしたよ」と反論することができる。そう、私は今彼を起こそうと行動したけれど、羽京くんは起きなかった。だから私は悪くない。
「ふふ、寝顔かわい~」
年齢よりも少し幼い寝顔を眺めているとテレビからは年越しを告げるカウントダウンが流れ出した。ああ、今年ももう終わりなんだな。
「あけましておめでとうございます、羽京くん。今年もよろしくね」
きっと朝起きた羽京くんは挨拶よりも先に朝を迎えている事実を知って「なんで起こしてくれなかったの」とへそを曲げるだろう。というか、逆の立場なら私もそう言うんだと思う。
でもね、羽京くん。私は初詣に行けなくったって、私の家でこたつで寝ちゃってるあなたが居るだけでとっても幸せなんだよ。
「…起きたらおせちの準備だね」
そう羽京くんに話しかけてパジャマに着替えて化粧を落とす。うぐ、この季節は肌の乾燥がやばいな、朝この顔を羽京くんに見られるわけにはいかないk
リビングに戻ってテレビと電気を消す。こたつに改めてもぐりこんで目を閉じると羽京くんの寝息が聞こえてきた。
初詣に行けなくって拗ねるあなたが見たいからって起こさなくてごめんね。どうかあなたの少し抜けた、私にしか見せない姿を今年もたくさん見せてほしいな。
「だいすきだよ、羽京くん」
今年はじめの愛の言葉は私から。もちろん、恥ずかしいから羽京くんには内緒。
公開日:2020年12月31日