雨の日も悪くねえな

2話「君にかわいいと言わせたい!」後のこぼれ話。


週のド真ん中、水曜の朝。
昨日から盛大に降り続いてる滝のような雨の中、警報が出ていないという理由のみで登校を強いるクソ制度のおかげでずぶ濡れ。不快度MAXな俺の隣にこんな状況にも関わらず笑顔をばら撒きながら登校してきた変わり者が現れた。

「石神くんおはよ!すごい雨だね」
「はよ、テメーは朝から元気だな」

はぁ、とため息をつく俺にそうかなー?と笑いながら席につく隣人は一見雨に濡れていないように見える。いつも下ろしている前髪はすべて綺麗にまとめられ、複数のピンで留められていて整った眉と普段見えない肌荒れ一つないデコが露出されていた。

「なんでお前濡れてねぇんだよ」
「レインブーツはいてきたからね!」

はい、校則違反。そんないい笑顔で言うことじゃねぇよと思いつつ履き替えられたローファーと靴下にその手があったかと感心する。

「それよりね、見てみてじゃーん!新しい傘!やっと使えたの!」

びちゃびちゃの傘を見せられても、と悪態をつきながら見せられた傘に視線をやると空色が飛び込んできた。透き通るそれに心がゆれると早く晴れるといいねと笑う名字。…こいつ、底なしのプラス思考なのか、天然タラシなのか読めねぇな。

「あと爪も雨模様にしてみたの」
「お前、雨楽しんでねぇか?」
「だって楽しまないと損じゃん」

雨の日はめいっぱい前髪で遊んで、傘もネイルも好きなものしかいらない。そんで放課後ちょっと遠回りしてシュークリームを買って帰るの。
ニコニコしながらそんなことを当たり前のように語る。雨の日の楽しみ方なんざ考えたことがなかった俺にとって隣人はすごいやつに見える。こりゃ底なしのプラス思考、不幸なんて一切寄せ付けない年中無休の幸せ者だ。

「それに。」

まだあんのかよ、まぁ聞くくらいはしてやるけど。

「雨のあとって、星空が綺麗だから雨が好き」

今日、夜には雨が上がるから絶好の天体観測日和になるかもよ。
青空のように透き通った言葉に、太陽のような笑顔に心臓がひっくり返りそうになる。そりゃそうだ、基礎の基礎、当たり前で、忘れがち。そんな常識を好きだと笑う。

「なんでかはわからないんだけどね」
「あ゛ー、それはな」
「やった、石神せんせの星空講座だ」

いたずらっぽく笑い、こちらを見ながら頬杖をつく名字の、雨空模様の爪が光を集めて反射する。上げられた前髪や少し湿気を含んでいつもよりくるんと遊んでいる後ろ髪。雨の日限定のそれは少しだけ、本当に少しだけ特別に見える。

雨の日も悪くねえな。

無事夜には雨が上がり、晴れた夜空を写真に収める。次の日にほらよと見せるとただでさえ大きい瞳がキラキラと星空を捕らえた。

「私も石神くんに見せようと思って!」

派手に飾ったスマホの画面は一面の星空。にこにこ笑ってスマホを持つ爪にはぜってーに生活する上で邪魔でしかないデカい星が乗っていた。

…底抜けのプラス思考つったが訂正だ、こいつ、ド天然タラシ様じゃねえか!

公開日:2020年6月30日